高齢者の食欲不振

 高齢者は様々な要因から容易に低栄養状態に陥ります。加齢に伴う基礎代謝量や身体活動量の低下、消化吸収に関連する生理機能の低下もあり、合併する疾患や病態によって、より生命が脅かされる可能性が高くなります。そのため、高齢者の食欲不振については、一層の注意が必要となります。

 高齢者が急に食欲がなくなった場合、まずは基礎疾患を考え、次に急性感染症を考えます。急性感染症は、すぐに対応しないと命やQOLにかかる可能性があるので、積極的に介入します。

 気をつけないといけないのは、高齢者では、発熱を認めない肺炎、尿路感染症、胆嚢炎がしばしば認められます。血液検査でも、感染症があるにも関わらず、白血球の増加や左方移動が認められなかったり、CRPが上昇しなかったりする例が多々あります。

 

(1)食事が美味しくないので食べない

・亜鉛欠乏などによる味覚障害

・うつ病

 高齢者の抑うつの評価は、認知機能の低下があったりして評価が困難なことが多いです。臨床的に抗うつ薬の使用をしたり、必要に応じて精神科医へのコンサルトが重要です。

(2)特定の食べ物(特に固形物)だけ食べられない

・嚥下障害や誤嚥

食時間の延長、食事の際のむせ込み、食後の声がれなどの誤嚥を示唆する特徴がないかを確認する。必要に応じて、唾液反復嚥下試験(甲状軟骨を触知した状態で30秒間の空嚥下が3回未満で陽性)など嚥下障害のスクリーニング検査を行う。

 

(3)薬剤による食欲不振

 薬剤によっては、副作用により食欲不振を認めるものがあります。 

 ジキタリス中毒、カルシウム・ビタミンD製剤による薬剤性高カルシウム血症による食欲不振や、消化管障害を引き起こす非ステロイド系抗炎症薬、副腎皮質ホルモン、カリウム製剤、抗生物質など、様々な薬剤が食欲不振の原因となります。

 また、健康食品やサプリメントの取り過ぎによる食欲不振も考慮しなければいけません。

※栄養状態に影響を及ぼす薬剤についてはこちらを参照ください。

(4)義歯不適合

 『最近、入れ歯を使っていない』、『義歯を外してしまう』などといった訴えや『入れ歯が合わず、噛みにくい』、『噛むと痛い』などの訴えについては注意が必要です。歯や歯肉を含めて口腔内を診る必要があります。症状や訴えが続くようであれば、歯科医師にコンサルトすることを考慮します。

(5)基礎疾患

 高齢者ではほぼ全例で礎疾患の合併が認められます。特に食欲不振を引き起こす基礎疾患として、感染症、心不全、腎不全、呼吸不全などが挙げられます。また、基礎疾患以外でも、認知症や老衰あるいは生理的な範疇による食欲不振も認めますので、鑑別には注意が必要です。下腿の浮腫が増悪していないかを確認することを忘れないでください。

 下腿の浮腫:腎不全や心不全、廃用性浮腫

また、高齢者では加齢により細胞性免疫が弱まり、結核を発症することがあります。微熱や上気道症状を随伴した場合だけでなく、食欲不振のみが前景に立ち消耗性疾患として体重減少が生じることがあります。


【食欲不振の治療について】

緊急性、特に循環器疾患や腎不全、急性感染症が否定的で一定以上の経口摂取が可能であれば、まずは精査をせずに注意深い経過観察(watchful waiting)をすることが基本方針です。その際、患者本人の意思や家族の意思を確認し、相談することが前提となります。ただし、意図的でない体重減少(特に6〜12ヶ月以内に5%以上の体重減少)は、何からの疾患を示唆することがあるため、体重減少の有無については必ず聴取し、評価することが重要です。

 食欲不振のスクリーニングとしては、血液検査が有効です。『食欲不振が認められるが、随伴症状がない』と言った状況は臨床ではしばしばあり、面接・身体診察のみでは鑑別診断が困難なことが多いです。食欲不振の原因として貧血、肝・腎機能障害、糖尿病、高カルシウム血症などがありますが、血液検査では、肝・腎機能、血糖、カルシウムを含めた電解質、甲状腺機能、HbA1cを調べることが出来ます。ただし、むやみやたらに血液検査を行うのは控えた方が良いです。高齢者では、何かしら疾患があることが多く、血液検査によってわずかな基準値の逸脱が見つかることが多くあります。そのことで、さらなる検査が必要となり、検査が連鎖していく可能性もあります。あくまで臨床症状を踏まえて考えることが重要です。

 血液検査以外の精査として、低侵襲である腹部エコーが第一選択になります。肝腫瘍、大腸腫瘍、胆嚢炎などの消化管病変についての情報を得られる可能性もあります。内視鏡などは、『個々の患者の負担』、『腫瘍が判明した際に治療介入が可能であるか否か』をもともとの患者さんの状態や経過を踏まえて、患者さんサイドと相談して決定する必要があります。治療が不能(例えば手術や化学療法が困難)であるのに検査を行っても、患者さんにとっては肉体的・精神的苦痛となるだけです。

 臨床の現場では、認知機能の低下が客観的に認められる臨床的な高齢者では、精査を行わないという英断を本人・御家族と一緒に下すこともあります。本人・御家族と一緒に話し合い(カンファレンス)を行う場を設け、しっかりと話し合いを行うことが大切です。

【食欲不振の原因を考えるのに有用な情報】

社会的要因 :買い物・料理のサポート

日常生活  :睡眠、排泄、生活の変化

薬剤の情報 :薬剤の種類、ポリファーマシー、健康食品・サプリメント

口腔内の問題s:義歯不適合、虫歯

注意すべき高齢者特有の原因:認知症、老衰、生理的範疇

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